立佞武多

○立佞武多2008
 五所川原市の誇る勇壮な祭り、「立佞武多」。その運行の記録を残すと同時に、みなさんにご紹介したいと思います。
 とはいえ、一応ここは図書館のホームページですので、ただ紹介するのではなく、多少アカデミックな解説を加えながら進めていくことにしましょう。

 ※ちなみに本ページで紹介しているのは8月7日(木)運行の様子です。運行日によって順番の違いや、出場していない団体などがありますので、その点はご了承ください。



 まず先頭を切って登場いたしますは「あすなろ大太鼓」。直径3.2メートル、全長3.6メートルの巨大な太鼓です。
 片側上3人、下4人、計14人の叩き手による太鼓の迫力といったらもうすごいもので、大気も地面もビリビリと震えているのを肌で感じます。






 まずは各団体・町内会による小型ねぶたの登場です

 「天下布武(てんかふぶ)」(製作:和會)

 言わずとしれた戦国の覇王・織田信長(おだのぶなが)です。ねぶたとしてのサイズは小さいのですが、信長の躍動感あふれる全身像と迫力ある馬の首を背景に据えることで余白を消し、ダイナミックな構図を生み出していると思います。

 ちなみに「天下布武」の意味については、単純に「天下を武力によって統一すること」であると言われてきましたが、最近では「公家や寺社勢力を排除した完全な武家政権を築くこと」とか、「中国の古典『春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)』にある七徳の武によって天下を治めること」というふうにも考えられています。








 「那智(なち)(たき) 文覚祈誓(もんがくきせい)」(製作:蘭喜会)
 ☆JR五所川原駅駅長賞受賞


 「平家物語」に出てくる文覚上人(もんがくしょうにん)の荒行の場面です。中央には那智の滝に打たれて修行をする文覚上人、その左右にいるのは不動明王から下界に遣わされた金迦羅童子(こんがらどうじ)制多伽童子(せいたかどうじ)と思われます。

 ちなみに、この文覚上人もともとは上皇などの警護をする北面の武士だったのですが、人妻に恋いこがれ、その夫を殺そうとしたところ誤って女性の方を殺してしまったために、その罪を悔いて出家し、厳しい荒行を自身に課しました。
 なお、その後、後白河法皇(ごしらかわほうおう)の怒りを買い、伊豆に配流されたときに源頼朝(みなもとのよりとも)と知り合い、平家打倒を促したということです。








 「三国志(さんごくし) 張飛(ちょうひ)厳顔(げんがん)(くだ)す」(製作:樂友會)

 「三国志」で劉備(りゅうび)軍が益州を攻めたとき、劉備軍の猛将・張飛が敵の老将・厳顔と戦い、これを生け捕りにした戦いを描いています。唸る張飛の蛇矛!盾を構えて応戦する厳顔!いや~、カッコイイです。

 ちなみに、「三国志」といっても歴史書である「三国志」(正史)と後世に書かれた小説「三国志演義」の2種類があることは、みなさんご存じのこととは思いますが、この厳顔という武将は「正史」にも名前が見られるものの、ほとんど記述がなく年齢も定かではありません。したがって老将というのは「演義」の創作である可能性が高いと言えます。
 なお「演義」ではこの後、劉備軍に加わった厳顔が同じく老将の黄忠(こうちゅう)とお爺ちゃんコンビを組んで活躍する話があります。老人と侮る敵将を手玉にとるスーパー爺ちゃんズ、痛快です。ぜひご一読を。
 








 「山姥(やまうば)怪童丸(かいどうまる)」(製作:幻游館)

 昔話「金太郎」の原型である怪童丸が熊と相撲をとり、母親の山姥がそれをやさしく見守っているように見えます。

 ちなみに、この怪童丸が後に源頼光(みなもとのよりみつ)に仕え、頼光四天王の一人・坂田金時(さかたのきんとき)として、酒呑童子(しゅてんどうじ)など都を脅かす鬼どもを退治するわけですが、実はこれらの昔話に出てくる「鬼」という存在は単純な空想上の怪物ではなく、実際は朝廷に服属しない人々を指していると言われています。
 つまり朝廷軍の侵略とそれに抵抗する人々の戦いだったものが、勝者によって一方的に貶められ、敗者が「鬼」という醜い化け物として描かれたということです。子どもたちに読み聞かせる昔話も、実はその裏側に血なまぐさい隠された歴史があるのです。








 「西遊記(さいゆうき)」(製作:北部地区住民協議会)
 ☆五所川原観光協会会長賞受賞


 中国四大奇書の一つ、何度もTVドラマ化がされているおなじみの「西遊記」です。向かって左に孫悟空(そんごくう)、中央前方に猪八戒(ちょはっかい)、右に沙悟浄(さごじょう)が配置され、中央後方に菩薩のごとき穏やかな微笑をたたえた三蔵法師(さんぞうほうし)が見守っています。

 ちなみに、三蔵法師のモデルである玄奘(げんじょう)は実際に唐の時代にインドへ渡り、仏教の経典を持ち帰ったわけですが、実は玄奘さん、朝廷から許可が下りなかったので不法出国をしたのです。当然、各州に「玄奘を捕まえろ」という命令が下されたのですが、「仏教の経典を持ち帰って苦しんでいる衆生を救いたい」という玄奘の情熱に、役人も命令文書を破り捨て、見て見ぬふりをして関所を通してあげたそうです。








 「岩見重太郎(いわみじゅうたろう) 狒々退治(ひひたいじ)」(製作:三振り会)
 ☆五所川原商工会議所会頭賞受賞


 全国を武者修行している剣術の達人・岩見重太郎が、立ち寄った村で神への生け贄にされた娘を救うため、娘の代わりに葛籠(つづら)に隠れ、現れた狒々を倒すという伝説です。襲いかかる狒々、刀を振り上げ立ち向かう岩見重太郎の姿がダイナミックに描かれています。

 ちなみに、この岩見重太郎と同一人物とされる薄田兼相(すすきだかねすけ)隼人正(はやとのしょう))は大坂冬の陣で豊臣方として戦っていたのですが、遊郭に通っている間に砦を徳川軍に奪われるという信じられない大失態をおかしてしまい、味方からも「橙武者(だいだいむしゃ)」(橙は見た目はキレイだが酸っぱくて食べられないことから、見かけ倒しの意味)とバカにされたそうです。そりゃ言われるよ・・・。







 ここからは、各団体・町内会による中型立佞武多の登場です。

 「(しばらく)」(製作:田町・栄町町内会)
 ☆五所川原市長賞受賞


 歌舞伎十八番の一つとして有名な「暫」。悪党に捕らえられた罪もない人々が今まさに処刑されようというときに、「しばらく~」と大声を発して現れた主人公が大暴れして、みんなを助け出すというお話です。
 憤怒の形相、突き出された左手が悪事を押しとどめんとする意志の強さを感じさせます。中型の立佞武多ですが、大型に負けない迫力と、造形の見事さが際だっています。

 ちなみに、江戸時代の歌舞伎ではこの「暫」はストーリーが同じで登場人物だけを変えて、様々上演されていたようですが、現在上演されている「暫」は九代目市川團十郎が演じたもの(主人公が鎌倉権五郎景政(かまくらげんごろうかげまさ)、悪役が清原武衡(きよはらたけひら))に固定されているそうです。








 「九鬼嘉隆(くきよしたか)」(製作:五所川原高校)

 市内の高校、五所川原高校の作品です。題材は、九鬼水軍を率いて織田信長・豊臣秀吉に仕えた九鬼嘉隆です。太刀をかつぎ、船の舳先(へさき)に足をかけて、いざ海原に漕ぎ出でんとする場面を描いています。

 ちなみに、信長が石山本願寺と対立しているとき、本願寺に食糧などを補給しようとする毛利水軍とそれを阻止しようとする九鬼嘉隆が指揮する織田水軍が激突しましたが、織田軍は多くの船を焼かれ、コテンパンに負けました。これに激怒した信長が「燃えない船を造れ」と九鬼に命じ、そして作られたのが有名な鉄甲船です。その鉄甲船で臨んだ次の戦いでは見事大勝利、毛利水軍を蹴散らしたのでした。
 ところでこの鉄甲船、「船」と名がつくものの実際は航海するような船としての機能はほとんどなく、水上の要塞という意味合いが強かったようです。








 「(もり)守護神(しゅごしん)」(製作:五所川原農林高校)
 ☆五所川原市議会議長賞受賞


 市内の高校、五所川原農林高校の作品です。ブナの大木を抱えた森の守護神が鬼を踏みつけ、退治しています。
 なお、五農高さんに問い合わせたところ、この作品は既存の物語を題材にしたものではなく、「地球環境を守ろう」というテーマで構想されたオリジナル作品とのことです。環境を脅かす悪い要因を「鬼」に見立てて、それを森の神が退治する姿を描くことで環境保護への想いを表しているそうです。

 ちなみに、ブナは漢字で書くと「橅」、木偏に無と書くのですが、椎茸の栽培ぐらいにしか使い道のない、役に立たない木だと言われてきました。ですが、それゆえに伐採を免れ、そして広大なブナの原生林を有する白神山地が世界遺産に登録されたことを考えると、「自然環境の美しさを伝える」という素晴らしい仕事をやってのけたと言えるでしょう。木偏に無と書くのはもはや失礼なのかもしれませんね。








 「一寸法師(いっすんぼうし)」(製作:さかえ立佞武多)
 ☆ごしょがわら市農業協同組合長賞受賞


 誰でも一度は聞いたことがあるおとぎ話「一寸法師」より、巨大な赤鬼とそれを針の刀でチクチクと攻撃する一寸法師の戦いを描いています。写真だとわかりづらいのですが、鬼の右肩あたりに一寸法師がいます。

 ちなみに、この「一寸法師」現在絵本なんかになっている話と室町時代の「御伽草子(おとぎぞうし)」の話とでは若干細部が異なります。例えば、一寸法師が家を出るシーン、現在伝わっているバージョンでは、都に行って武士になりたいとポジティブに出発しますが、「御伽草子」バージョンでは、おじいさんおばあさんが小さいまま成長しない一寸法師を気味悪がり、それを察した一寸法師が家を出て行くというネガティブな話になっています。他にもいろいろと変わっている部分がありますので、興味のある方は読み比べてみるのもよいでしょう。




  

  




 ここで少しブレイクタイム。各会のねぶたの先導をする、ちっちゃいねぶたをまとめてご紹介します。
 右上は、ちょっと光量が足りなくてわかりづらいのですがプーさんのようですね。
 右下は、「あしゅまる」という青森県の「子どもの豊かな心を育む運動」のシンボルキャラクターです。
 左上は、佐川急便のロゴマークですね。駆け出す姿のシャープなフォルムがカッコよいです
 左下は、アニメ「ヤッターマン」に出てくるヤッターワンです。どうですか、この出来の良さ。よく見ると左下にドロンジョ様の仮面を被った人がいます。オッサンでしたけど・・・。






 ここからはついに大型立佞武多の登場です。

 「不撓不屈(ふとうふくつ)」(製作:鶴谷昭法)

 まずは2008年度作、初お目見えの「不撓不屈」です。
 戦国時代の武将・立花道雪(たちばなどうせつ)が雷神に立ち向かう勇姿を形づくったものです。
 天より見下ろす赤肌の雷神、己を鼓舞するかのように刀を振り上げる立花道雪、縦に長い立佞武多ならではの構図で、迫力と荘厳さを感じさせます。

 ちなみに、立花道雪は豊後(ぶんご)(現・大分県)の大名、大友氏の武将で、落雷を受けて半身不随になってからも家臣のかつぐ輿(こし)に乗り、指揮を執っていたという逸話で有名です。知勇に優れ、戦場においては連戦連勝、「鬼道雪」と称され、諸国に知られたそうです。遠く甲斐(かい)(現・山梨県)の国にいる、かの武田信玄が面会したいと望んでいたという話も伝わっているそうです。また、部下思いで情に厚い人物でもあったようで、それに関するエピソードも多数残っているそうです。

 ※製作発表時のコメント
 「今世は様々な不安や悩みを抱え疑心暗鬼になり、人々の心をみだしている。しかし、そんな時こそ自らの信念を貫き、雷神に襲われ半身不随になっても戦場に出続けてどんな事態にも強い意志で自分の信じる道を進んだ戦国時代豊後の武将『立花道雪』の不撓不屈の精神を学び現代社会を力強く生きてほしい」








 「(きずな)」(製作:三上敦行)

 続きましては、2006年度作「絆」です。
 鬼子母神(きしもじん)が赤ん坊を抱き、足下には天燈鬼(てんとうき)が灯籠を肩にかつぎ、竜燈鬼(りゅうとうき)が灯籠を頭に乗せ、子どもの歩む道を照らしています。
 女性を主人公とした作品だけに、これまでの豪快な迫力ある作品とは違い、柔らかみのある曲線で構成された造型は見る者に優しさや慈愛を感じさせます。個人的には下の鬼たちがコミカルでカワイイところが好きです。

 ちなみに、鬼子母神は500人の子どもを育てるために人間の子どもをさらっては食べていた鬼神でしたが、お釈迦様が彼女の一番可愛がっていた末っ子を隠して、子どもを失う悲しみ、苦しみを諭したことによって改心し、その後は仏教に帰依して子どもと安産の守り神となったそうです。
 なお、彼女が右手に持っているのはザクロの実ですが、なぜザクロを持っているかというと、ザクロは種が多いため、多産の象徴であるからです。しかし別な話で、ザクロは人肉の味に似ているため、というのがあるのですが、どうもこれは後世になってこじつけられたお話のようです。

 ※製作発表時のコメント
 「近年子どもを取り巻く環境が悪化しつつあります。中でも親や大人が子どもを虐待するという事件はあとを絶たず、多くの子どもが犠牲になっています。将来ある子どもたちのため親子の絆を再確認し、また、一人ひとりが優しい気持ちで子どもたちを育み、光り輝く未来を築きたいという思いを込めました」








 「芽吹(めぶ)心荒(うらさ)ぶる」(製作:齊藤忠大)

 トリを務めるのは、2007年度作「芽吹き心荒ぶる」です。
 水面に立ち、善人の顔のお面を左手に持ち、右手はこめかみから生える悪の芽を摘み取ろうとしています。
 踏み出す右足、逆立つ髪の毛、力のこもった指先、その全てが見る者に鬼気迫る迫力を感じさせます。

 ちなみに、この作品は左手に持っている面が表向きの顔であり、面を外した顔が悩み苦しみといった心の弱さを表しています。そしてその心の弱さ故に生えてきた悪の芽がいずれ角へと変貌し鬼と化す前に、その芽を摘み取ろうとしているのだそうです。
 なお、モチーフとなる作品が何なのかどうしてもわからなかったため、立佞武多の館に問い合わせ、製作者の齊藤さんご本人にお聞きしたところ、齊藤さんオリジナルの構想だそうです。正しくゼロの状態からこれほどの大作を作り上げたことに驚愕しました。

 ※製作発表時のコメント
 「『悪の芽が芽生える』という言葉で例えるように、それが根をはり今は悲しい事件が後を絶ちません。社会のせいと責めるだけではなく、今一度自分を省み、こめかみから悪の芽が伸びツノになり鬼と化す前に、自らの芽を摘む心の強さを持って人間の尊厳を保ってほしい・・・」 


 以上、2008年の「五所川原立佞武多」のもようをお届けいたしました。
 地元の方も遠方の方も、どうぞまたお越しください。みんなで一緒に盛り上がりましょう。


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